永住許可に関するガイドライン改定案について考える

このコラムは2026年8月4日から9月3日に「永住許可に関するガイドライン」の改定案についてパブリックコメント(意見公募)が実施されたことを受けて、ガイドラインの意味や今回の改定(2026年10月1日改定、2027年4月1日施行)の意義について考察を行ったものです。
※改定後のガイドラインは、既に出入国在留管理庁のHPに掲載されています。

Contents

01 ガイドラインの目的と性質

ガイドラインには永住許可の審査で考慮すべき事項についての基本的な考え方が示されています。出入国在留管理庁では、このようなガイドラインを作成し公表することによって、永住を希望する外国人やその関係者に永住許可の可否の予見可能性を高めることができると考えています。

ただし、実際の可否判断は、個々の案件ごとに事情を総合的に考慮した上で、入管法で認められている法務大臣の裁量権にもとづいて行われることになります。

現在も改定後も、ガイドラインに書かれていることがすべてではなく、あくまで審査において考慮される要素についての基本的な考え方がまとめられているのがガイドラインです。今回の改定案では、これまでも審査で考慮されていた内容を改めて明文化した箇所と、これまでになかった要素が追加された部分があります。

02 「永住許可に関するガイドライン」の改定案で示された主な変更点

在留資格「永住者」の位置付け

「活動・期間の制限が無く、生涯を本邦で過ごすことが想定される最も安定した法的地位」なので、「特に慎重な審査を行う必要」という文言が入ります。(初めて明記)

「永住者」の在留資格は、在留活動及び在留期間の制限のない最も安定した法的地位であって、この在留資格が付与された外国人は、その後の生涯を本邦に生活の本拠を置いて過ごすことが想定されていることから、永住許可の許否の判断をするに当たっては、特に慎重な審査を行う必要があります。

永住許可の3要件について

入管法(第22条2項)では永住許可の要件として、以下の3つが定められています。

  • 1 素行が善良であること(素行善良要件)
  • 2 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること(独立生計要件)
  • 3 その者の永住が日本国の利益に合すると認められること(国益要件)

新しいガイドライン案においては、 「1 素行善良要件」についての内容はこれまでと特段変更ありませんが、「2 独立生計要件」と「3 国益要件」については、基準が引き上げられています。

「2 独立生計要件」では、現在及び将来において、日本人と同等水準以上の経済条件を求めることが明記され、「収入」および「年金の受給見込み額」が一定の水準に達していることが必要とされています。基準の引き上げと理解してよいでしょう。

「3 国益要件」では、積極的かつ具体的に当該外国人の永住が日本国に利益をもたらす必要があることが明記され、日本語能力(自立した言語使用者)の水準が追加されたほか、公共の負担となるおそれが現実的である者や、日本の制度等の理解が乏しい者、学齢期(義務教育期間)の子を就学させていない者や就学していない子については、消極評価の対象となることが明記されています。

”公共の負担とならないこと”という要件は、独立生計要件の適用除外対象の方(日本人、永住者又は特別永住者の配偶者又は子、難民等)についても今後は考慮されることになります。独立生計要件に加えて国益要件においても、経済面でのハードルが高くなっています。

その他の注意点

その他、「原則10年在留に関する特例」として、日本人・永住者の配偶者等については、これまで婚姻期間3年かつ本邦在留期間1年で永住許可申請が認められていましたが、この特例基準が引き上げられ、婚姻期間5年以上かつ本邦在留期間3年以上となっています。

改正後のガイドラインの適用時期については、令和9(2027)年4月1日以降の申請からとされていますが、ただし書きが付いており、「収入」および「公共の負担とならないこと」についての考え方については、改定日から6ヵ月前の日(つまり、2026年10月1日)以降の申請案件にも適用されるとのことです。

03 経済的状況重視の背景

現在、人手不足のために外国人の受け入れが不可欠とされている一方で、永住許可の審査を厳格化する背景には何があるのでしょうか。

日本に在留する外国人の多くは20代から40代の生産年齢世代であり、社会保障費については、給付(医療・年金・生活保護など)の受け取りよりも、社会保険料の方が多い状況にあるとされています。また、日本で働き、生活している以上、所得税、住民税、消費税など、税収の面でも貢献しています。つまり、全体で見れば今の日本において、外国人は財政を支えている状態です。

にもかかわらず、永住許可については、特に経済的な観点で審査を厳格化を急いでいます。背景にあるのは、これからさらに増加するであろう外国人就労者が定住・永住し、日本で高齢者として暮らす時代がくること。将来的な医療・介護給付の増大リスクに備えるためと考えることができます。

04 「収入」の基準は妥当か?

長期的な財政インパクトへの懸念は一理ありますが、「収入」の基準については、もう少し丁寧な対応が必要なのではないかと感じます。

このガイドラインの中では「収入」について、以下のように書かれています。

原則として、申請時点で、申請者の属する世帯年収の額が、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準の額に継続して達しているかを考慮要素とします。

「世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入」が明らかになるとしても、職業や地域による違いは考慮されるのか、考慮されるとしたらどのように考慮されるのか、など疑問点は残ります。

また、そもそも「平均値」というのは公平な基準となり得るのでしょうか。平均値は都市部の大企業に勤める人や一部の高所得層によって引き上げられるため、日本の全世帯の過半数(約6割)は平均所得以下で暮らしています。日本人の大多数が達していない水準を外国人にだけ求める理由を合理的に説明することはできるのでしょうか。日本人でも、永住許可を得た外国人と自分を比較してモヤモヤする人が増えるかも知れません。

外国人労働者の多くが、介護、建設、物流、農作業など、日本社会の維持に不可欠な現場を支える仕事に就いています。そして、そのような業界は平均年収に届きにくい構造になっているのが現状です。そのような業界で長年真面目に働き、税金や保険料を収めて生活していても「年収が平均に達しない」という理由で永住資格から切り捨てられるようでは、外国人に選ばれない国になることが懸念されます。また、日本人にとっても暮らしやすい社会にはならないのではないでしょうか。

05 まとめ

日本の人口に占める永住者の割合が財政に影響を与えるほど大きいものになるのかは分かりませんが(大きくしないという権限も国にあるわけですが)、永住許可ならではの長期的な視点に立てば、日本語能力、我が国の制度等の理解、子供の就学は、外国人世帯の生計の安定にも寄与する非常に重要な要素です。これらが今回、明文化されたことには意義があると思います。一方で、収入の基準については、公平で納得感のある実運用ができるのか、まだ課題がありそうです。

参考:
「永住者」の適正化に係るパブリック・コメントの実施について | 出入国在留管理庁
2 所得の分布状況|厚生労働省